歩道橋が好き

交差点で横断歩道を歩く大人の女性。そこへ曲がろうとする自動車がやってきたときに、どちらがゆずるのかちょっとの間があった。 なんでもない朝の風景だが、心に残っているのは、譲り合おうとする気持ちを持つ人間が珍しくなりつつあるのだろうか?


 なぜだか歩道橋というものが好きで、休日の暇なときによく渡る。あまり歩いている人はいない。横断歩道を渡るほうが楽だし、時間もさほど変わらないのだが、わざわざ渡る。ほんの少しの遠回り、階段を登りほんの少し疲れて、橋の下をクルマが通り過ぎるのを横目で眺めながら歩いて、こんどは階段を降りて道の向こう側にたどり着く。


 空を感じる。とふと思う。 車道の上は建物もないし、地面より少し高い。視界に青空が飛び込んでくるという感覚を何度か感じた記憶がある。そこは風が吹き抜ける場所でもあり、 ときには過去に歩道橋を渡ったときの記憶がよみがえる。今はもう会わなくなった人と何処かへ向かっていた。映画館だろうか? だとしたらたぶん、そこにはもうない。元気にやっているだろうか。死んだりしてなければいいと思う。やはり生きている方がいい。

 古びたコンクリートの階段を踏みしめて、身体への抵抗感と同時に、下界の忖度や気遣いのわずらわしさから解放されるちょっとした自由をたずさえて、信号機の付いた橋の上を歩く。そこでは自動車と歩行者、見上げる者と見下ろす者、自由と不自由、過去と未来、空間と時間など様々なものが交差するのだ。 

そんなわけで歩道橋は私のパワースポットなのである。

北沢誠のホームページ

仲間はいらない。

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